人と人との関係

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新しい価値観に向けて

世界の理想「自由・平等・友愛」

 「自由・平等・友愛」とは、フランス革命以降、世界が目指す理想です。その精神は、国連世界人権宣言の第1章にも掲げられています。しかし、すでにフランス革命から200年以上経ちましたが、私たちはまだ理想の世界に到達したとは言えない状況です。

「自由」な経済活動が基本の資本主義は、お金の価値観が優先し、環境破壊や格差問題を引き起こしていると非難されています。「平等」をスローガンとする社会主義や共産主義は、独裁や強権による非効率や腐敗、全体主義へのリスクを高めているようです。自由と平等は、ともに理想的な価値観ですが、皮肉にも社会問題や対立の原因になっているのが現実ではないでしょうか。

幸福になりたい個人

個人の視点では、誰もが幸福になりたいはずです。自由と平等、どちらが欠けても、幸福な社会とは言えません。私たちは、それぞれ個性ある個人ですが、個人の側面だけでなく、家族や社会、そして大きくは地球の一部でもあります。周囲の人や環境にも強く影響されます。どちらかではなく、両方を目指すのは本当に難しいのでしょうか。

第三の理想、友愛

自由と平等(章をまたぐとそれらが何を指しているか分からないため置き換え)をつなぐ役割が、三番目の理想である「友愛」なのかもしれません。友愛とは自分と同様に他人を大切に思う心であり、自由と平等、個人と社会の両方を満たそうとする価値観です。
だからと言って「友愛こそが大切だ!」と訴えても、世界は決して良くなりません。歴史を見れば明らかで、友愛という言葉で悪用されるだけでしょう。友愛を目指すのなら、政治、経済、社会、歴史、文化など、様々な視点から知恵を結集させることが必要です。

正義の反対は別の正義

正義と悪が戦う構図は、誰かの正義が別の人の正義と対立し、自分を正義、相手を悪と呼んでいるだけではないでしょうか。正義とは、自分が正しいと思う価値観に過ぎません。もし自分に正義を感じるなら、相手も(別の)正義を感じていても不思議ではありません。つまり、正義と悪が戦う構図は、視点を変えると相手も別の正義のために戦っているのです。強制されるダイバーシティ、正義のための戦争、、、これらに含まれる矛盾やモヤモヤを感じませんか。

幸福を感じる環境

幸福を感じる環境とは?

幸福を感じる環境について考えてみます。人が幸福を感じる時、その要因を探ると、モノやお金などの物質に由来する場合と、良好な人間関係など精神に由来する場合とがあります。以下では「物質的な幸福」と「精神的な幸福」とに分けて考えることにします。

現代の社会システムとその課題

現代の社会システムは、自由主義と社会主義とに大きく分類できますが、ともに貨幣経済であり、資本主義の要素を含んでいます。その点で、自由主義は企業をベースとした「企業資本主義」、社会主義は国家をベースとした「国家資本主義」と考えることができそうです。企業資本主義では、企業の競争を促し、市場を通して効率的な資源配分や経済成長を目指します。国家資本主義でも競争はありますが、国家主導の管理や統制を重視します。どちらの資本主義でも、富の集中や権力の濫用を招きやすく、格差や抑圧が生じやすい、という課題を抱えています。

平等に対する考え方

国家資本主義では、例えば共同富裕のように、財を強制的に分配しようとする動きがあります。これは結果の平等を重視しています。一方、企業資本主義においては、成長や効率には公平な競争が不可欠と考え、インサイダーなど不正を厳しく取り締まります。これは機会や権利の平等を重視していることが背景にあると考えられます。

財の分配の限界

資本主義の弊害である格差解消のため、豊かな者から貧しい者へ財の分配を強化すべきとの議論が活発になってきています。富裕層への増税などはその方法の一つです。しかし、財の分配だけが格差解消の解決策なのでしょうか。

図1をご覧ください。図中の木箱が財の大きさだと仮定すると、「平等」に分配しても、一部の人の課題は解決されない可能性があります。また「公平」になるよう分配しようとすれば、より多くの財が必要となります。そのための財源を他者に求めるかも知れません。財の分配は、誰かの我慢や犠牲の上に成り立つ側面があります。一番右の図で示されているように、財の分配だけを議論するのではなく、根本的な障壁を取り除く方法はないのでしょうか。そのためには「物質的な幸福」だけでなく「精神的な幸福」の両面から考えることが必要だと思います。

【図1】平等・分配の限界と幸福な状態

物質的な幸福と精神的な幸福の調和

今までの「平等・分配・成長・効率」とは、「物質的な幸福」からの視点であり、モノは誰かに与えれば、その分減ってしまうという性質を持っています。そのため犠牲や奪い合いが生じることもあります。一方で、「精神的な幸福」は誰かに与えても減ることはありません。むしろ共感・共鳴できる仲間が増えることで、関わる人たちの満足度が高まることでしょう。信頼できる関係性や寛容な社会の実現も精神的な幸福を高めると思われます。このような心理的安全性が確保された環境の中では、「個人」と「社会」、「経済」と「自然」などのバランスを重視する思考が生まれるのではないでしょうか。その結果として、財や権力の集中という様々な弊害が緩和され、多くの人が幸福を感じられる環境に近づくと考えられます。

幸福の尺度

GDPに代わる経済指標

マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラー教授も資本主義の問題点を指摘しており、これからは、金銭的・物質的な豊かさを象徴するGDPではなく、より多くの人々が幸福を感じる政策を国家は選ぶべきだと言っています。

【図2】GDPが人を不幸にする理由 幸福な世界をつくる方法(日本経済新聞より)
出典:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK053M50V00C21A1000000/

幸福の尺度

ブータンという国を知っていますか。ブータンはヒマラヤ山脈にある仏教を信奉する小国ですが、世界で最初に「国民総幸福量」(Gross National Happiness: GNH) という指標をつくり、国民が幸福感を持って生活できるということを理念としています。「物質面だけではなく精神面が満たされているか」、「仕事と余暇を楽しむバランスの取れた生活が送れているか」、「互いを尊重し合う多様性があるか」や「地域やコミュニティとの繋がりを保っているか」などを国民の幸福を測る指標としています。<

国連が発表する世界幸福度ランキングでは、日本は世界54位であり、「人口あたりのGDP」は高いけれども「自由度」や「寛容さ」は低くなっています。日本はGNH基準では発展途上であり、見方を変えれば伸びしろが大きいとも言えます。

【図3】ブータンの国民総幸福量(GNH)出典:外務省「わかる!国際情勢」

【図4】2022世界幸福度ランキング(持出典:続可能な開発ソリューション・ネットワーク

幸福度の高い社会を実現するには

ブータンの国民総幸福量の指標である4本柱と9分野を基に、社会の幸福度を高めていく方法について考えてみます。 まず、国や自治体がGNHを尊重する大方針を定めます。企業はそれぞれ具体的にGNHの各指標を高める事業活動を行うことで、顧客や関係者の支持を得るとともに、国や自治体からの支援も受けることができます。幸福の再分配が行なわれることで、次第に社会の価値観は幸福を重視したものへと変化するでしょう。分配しても減らない「精神的な幸福」が社会全体に広がっていくことで、それを実感する人が多くなります。企業価値が高まることでより多くの企業の参加も見込めます。この好循環が起こることで、より暮らしやすい社会が実現すると考えられます。

【図5】GNHを基軸とした再分配

幸福の循環

個と集団の関係性

人は誰もが幸福になりたいと思っています。しかし与えても減らない「精神的な幸福」を追求しようとすれば、個人個人が社会に対する責任を感じながら、他者も幸福になりたいという気持ちを理解することが必要です。幸福という共通概念のもとに、他者との価値観の違いを認め合うことができます。その結果、より多くの「共感・共鳴・信頼・寛容」が生まれ、人と人とのより良い関係を築いていけるでしょう。

その関係性はリアルなものとは限りません。例えば、テクノロジーの進化によってバーチャルなコミュニティも増加すると、場所や時間に関係なく、今まで以上に様々な価値観に触れ合うことができます。個人が他者との価値観の違いを認めながら多様なコミュニティに参加することで幸福への価値観がアップデートされ、人と人と、人と社会との関係性が幸福な社会を実現していく推進力となってゆきます。

幸せの”これあれ”スクリュー

図6は「物質的な幸福」と「精神的な幸福」の両方がスクリューのように循環して混ざり合うことで、真の幸福に近づいていく様子を示しています。それぞれ自由で多様性ある立場を保ちながら、他者との「共感・共鳴・信頼・寛容」を構築していくことが「精神的な幸福」への近道と言えるでしょう。

【図6】幸せの”これあれ”スクリュー

つまり「精神的な幸福」とは、人間関係において「これでいいのだ、あれもいいのだ」と多様な価値観を一人ひとりが認め合い共感を生み出すことではないでしょうか。それらが共鳴しあうことで信頼が深まり、寛容な心が伝播し「精神的な幸福」を感じられる新たな価値観の軸になると考えます。

さいごに ~ ”これあれ”スクリューって何だ?

突然ですが、「バカボンのパパ」はご存じですか。昭和のギャグ漫画「天才バカボン」のメインキャラクターです。パパの口癖は「これでいいのだ!」。現代の私たちに必要な姿勢ではないか、と思います。まず「これでいいのだ!」と自分の価値観に自信や自由を感じる。そして「あれもいいのだ!」と同じように他人の価値観を尊重する。このような姿勢が、新たな学びで成長を促し、協力と助け合い精神で平等に感じる世界へとつながるのです。その先には、人類が求めてきた「友愛」があるのかも知れません。

「人と人との関係は、これでいいのだ、あれもいいのだ」(by パパ)