環境問題

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当たり前のものが手に入らなくなったらあなたはどうしますか?

私たちが暮らしているこの地球は、現在、温暖化や気候変動など、さまざまな環境問題にさらされています。日々、何気なく享受しているきれいな空気、水、食料。そして生活に必要な住環境。これらの当たり前に手に入ると思っているものが、今後手に入らなくなるとしたら、あなたはどうしますか。

本章では、世界中で高まりつつある環境問題、とくにエネルギー問題について考えてみます。

最近よく見る SDGs でも、「13 気候変動に具体的な対策を」「14 海の豊かさを守ろう」「15 陸の豊かさも守ろう」など、気候や資源といった環境問題に焦点が当てられています。

地球環境や海・陸の資源を今後も維持するためには、気候変動の進行を止めることが重要で、そのためには、世界的な課題でもある、CO₂等の温室効果ガスの排出量を減らしていくことが必要です。

CO₂排出量は、世界全体の 4 分の 3 がエネルギー起源、つまり、私たちが日々享受している電気やガス、熱や光、移動などのエネルギーを生み出すところで占められています。
この、エネルギーのあり方を見直すことが、地球環境を維持していくうえで最も重要な課題と言えます。

図1. 国連による持続可能な開発目標 (SDGs)

オール電化はCO2排出削減の最終手段

ところで、 「エネルギー」というと皆さんは何を思い浮かべますか? 先ほど例に挙げた電気やガス、熱や光、移動などをイメージされる方が多いと思いますが、これらは加工されたエネルギーとして「二次エネルギー」と呼ばれます。

これに対して、石炭、石油、天然ガス、原子力、水力、風力、太陽エネルギーなど、加工されていないエネルギーのことを「一次エネルギー」と呼びます。中でも、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やすことが、CO₂排出の主な原因となっています。では、CO₂を排出しない原子力、水力、風力、太陽エネルギーから作り出される「二次エネルギー」といえば何を思い浮かべますか?

図2. 温室効果ガス排出量の産業別割合
出典: Climate Watch, the World Resources Institute, 2020; Our World in Data, 2020

ほとんどの方は電気とお答えになるのではないでしょうか。

実は現時点において、CO₂を排出しないで生活を送ろうとすると、交通、空調、給湯などを電化(例 EV、暖房エアコン、エコキュート)することも重要(*) で、クリーンな電気を発電するだけでは不十分なようです。

*) 日本では、エネルギー起源の CO₂排出量のうち、電力分野は 45%、電力「以外」の分野は 55%と、後者の割合の方が大きくなっているようです。まだまだ電化できる部分は多そうですね。

図3. 一次エネルギーと二次元エネルギー
出典: 資源エネルギー庁, エネルギー白書 2021

電化が招く弊害

電化を進めると共に、やはり電力分野がどうあるべきかについても考えていく必要があります。

世界的な脱炭素の流れは、1990 年代に特に大きくなり始め、原子力と再生可能エネルギー(再エネ)による発電がその中心となっていましたが、2000 年頃からはヨーロッパを中心に、再エネが急拡大します。さらに東日本大震災以降、原子力の発電量は横ばいとなり、再エネは世界で主力の電源となっています。この再エネの急拡大、急速な脱炭素政策が、実は別の問題も生み始めています。曇り、無風、渇水の状態だと、それぞれ太陽光、風力、水力の発電量が少なくなりますよね。この時、ガスなどの火力発電で補うことが一般的ですが、安定供給に弱点を持つ再エネがすごく増えたところに、供給不足の状態が続くと、化石燃料の在庫を一気に取り崩すことになります。他方で、脱炭素の流れから化石燃料の採掘開発が減っており、在庫補充しようとすると、需給のバランスが突然崩れ、化石燃料の価格が高騰し、経済や生活に影響を及ぼしてしまいます。この、オイルショックならぬ化石燃料ショックといった事態が、今まさに現実として起こっているのです。

図4. 世界の化石資源投資額の推移
出典: 資源エネルギー庁, エネルギー白書 2021

図5. 世界のGDPと1次エネ消費の推移
出典: 資源エネルギー庁, エネルギー白書 2021

発電方法はどうあるべき?

では、電力分野はどうあるべきなのでしょう。その答えは「多様性」にあると考えます。現代社会において電力は生命線ともいえるため、安定的な供給が求められます。

それぞれの発電方法には、強みと弱みがあるので、目まぐるしく変化する現代において、様々なリスクに耐えられる多様な電源の組み合わせを、その国の事情に合わせて保有していくべきではないでしょうか。

例えば日本において、あなたならどういった選択肢を取りますか?

安定供給第一で長期短期の調整力を持つ火力を応援、自給率と経済性から原発を応援、蓄電池を買ったり節電で我慢したりしながら太陽光や風力を応援、世界 3 位の地熱資源や世界 6 位の海洋面積を活かした再エネ開発を応援・・。

おそらく、世界や国内の情勢、または技術開発の進歩によって、どれも正解になり得ます。大切なのは、私たちひとりひとりが、何を得るために何を捨てるのかを、しっかり理解することかもしれません。

表1. いろいろな発電方法とそのメリット・デメリット

個人や家庭でできることは何か?

私たちが住む地球を持続可能な環境にしていくために、個人や家庭ではどんなことをすべきでしょうか。

日本国内のすべての CO₂排出量のうち、家庭からの排出量は約 16%となっています。個人や家庭が CO₂削減に取り組むことで、全体の排出量を押し下げることができます。

図6.2020年度日本の部門別二酸化炭素排出量の割合
出典: 全国地球規模化防止活動推進センターホームページ

2022年 6月現在、政府では、節電に協力した家庭向けのポイント制度の検討が呼びかけられてきました。これまでも、日本では、冷暖房の設定温度や省エネ家電の導入などが呼びかけられてきました。
たとえば、環境省が推進する「エコ・アクション・ポイント」などのポイント制度もあります。
しかし、内容がやや一般的でないことからあまり広く普及しておらず、個人や家庭の行動変容を促すには至っていないように思います。

また、現在政府で検討されている家庭向けのポイント制度も、3%の節電で、モデル世帯で月数十円の還元と、残念ながら大きな経済メリットは受けられません。
すでに省エネに取り組んでいる家庭は恩恵を受けにくいなど、課題も多いように感じられます。

「環境ポイントアプリ」の紹介

家庭部門で 16%を占めている CO₂排出量を減らしていくためにも、広く人々に「行動変容」を促していく仕組みが必要ではないでしょうか。個人や家庭が CO₂を主体的に減らしていく行動を促すためには、やはり何らかのインセンティブが必要です。このため、「環境ポイントアプリ」により税金が還元される制度の導入を考えてみたいと思います。

「環境ポイントアプリ」とは、省エネ家電や太陽光発電の導入など、CO₂削減につながる行動によりポイントがためられ、たまったポイント分で所得税・住民税が軽減される仕組みのイメージです。行動の対象としては、省エネ家電や LED 照明、太陽光発電や蓄電池、ハイブリッド車や電気自動車の購入といった消費行動のほか、冷暖房の温度調整やアイドリングストップといった日々の行動が含まれます。それぞれの行動を数値化・見える化してポイントとして蓄積し、最終的に所得税・住民税で還元します。

こうした仕組みにより、個人の行動を数値で見える化することにより、個人の CO₂削減に向けた意識やインセンティブの向上につながることが期待できます。「光熱費の削減」といった近視眼的な目的だけでなく、人々が、広く環境や地球のことを考えた行動を自発的にするようになることが、持続的な社会の実現につながるのではないでしょうか。

図7. 「環境ポイントアプリ」のイメージ